先般、あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」で、出品された「平和の少女像」が、会期中に撤去されるという“事件”が起こった。昭和天皇の写真を燃やすイメージの作品も同じ展覧会に展示されていたとのことで、一般からの多くの抗議(脅迫を伴ったものもあったらしい)や名古屋市長からの要請を受けての措置であったと伝えられている。

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日本では、厳密には今回とややケースが異なるが、2014年の東京都美術館の事例が記憶に新しい。確かこれも政治マターであった。

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私はどちらかといえばアート側の人間なので、これらの声明の内容そのものにはもちろん同意する。だが少々気になるのは、戦前の言論統制の状況下で行われるべきものとまったく同じトーンのこうした声明が、いまどのくらい一般市民の心に響いているのかということだ。

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こうした一般的な“感覚”(私もこれはこれで理解できる)に対し、「いや、心を逆なでするものも含めてすべて芸術表現であり、それは憲法21条によって例外なく守られねばならないのだ」という“正論”がどこまで有効なのかと考えるとき、この問題の難しさが見えてくる。昔は「公権力vs市民」というお馴染みの図式であったものが、今は「市民vs市民」という図式に変わってしまっており、行政の現場はその両方に挟まれて右往左往しているだけのようにもみえるからだ(確かに今回“政治介入”した市長もいたが、これは少なからぬ市民が展示に不快感をもっている空気を察し、それに都合よく“乗っかった”ような感じに私にはみえる)。

もし以上のような見立てがあながち的外れでないなら、両者の議論はもとから噛み合っていないことになる。今回の“事件”についてちゃんと議論する場を持つべきだとの声も聞かれるが、仮にそのような場を持っても、議論は不愉快な平行線のままで生産的な結果にはならないだろう。社会の紐帯となるはずのアートが、逆にその分断を露わにしてしまうとしたら何ともやるせない。

現実問題として、もし本当に相当数の一般市民が抵抗を感じるものなら、そうした展示を、「公の場所で」「公金を使って」行うことには自ずと限界があるだろう。それもまた“民主主義”の一側面なのだから。ただ私は、たとえ一般に受け入れられにくい種類のアートであっても、社会としてその創作はもちろん、発表においてもどこかで許容していくことが重要であると思う。その時代の社会通念に縛られないところにこそアートの価値があると考えるからだ。

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第一に、現代芸術の意義や、それに公金を使うことの意味を一般市民にもう少し丁寧に説明していくべきである。騒ぎになることが予めわかりつつ(もしこれだけの騒ぎになると予見できなかったとすれば、その感覚のズレには呆れざるをえないが)、いきなり公的施設の本丸で“劇薬”のようなことを仕掛けておいて、批判が出れば「憲法で保障された表現の自由」という十年一日のごとき反論に終始するのでは、認識の溝は決して埋まらないだろう。

第二に、民間・非営利の芸術文化セクターをもっと積極的に育成・支援していくべきである。先のネットの意見にもあったように、行政が直接手掛けるものに対してと、民間が行うものに対してとは市民の目線が異なる。民間セクターには、行政が手掛けられないものを手掛けられるという意味で大きな社会的役割があるのだ。一方でアートにとっては、民間が設置していようが開かれたスペースであれば「公の場」である。こうした場=NPOを、税制等も活用して支援することに対してなら、市民の抵抗感はおそらくないはずだ。

第三に、これは単に個人的なお願いを追記しているだけだが、(今回の、というより一般論として)ディレクターの能力については慎重に審査してほしい。私は、アートフェスティバルであるからには、芸術表現の水準が最重要の評価基準であるべきだと思う。作品に政治的なメッセージを込めることには何の問題もない。ただそれが、アートを媒介とすることで言論では到底不可能なコミュニケーションたりえているのか、そして同時にそれが単なるアジテーションではなく芸術表現として昇華されているのかが問われなければならない。アーティストにとっては並大抵のハードルではないはずだ。それを見極められる力がディレクターにはやはり必要だろう。

今後も同じような“事件”が繰り返されるとすれば、社会にとってもアートにとっても、まことに不幸なことである。不毛な撤去騒ぎは今回でもう終わりにしたいものだ。

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